humunus ツアープロジェクト

@福島県富岡町

 -うつほの襞 / 漂流の景-

   2021.12/24〜26 - 2022.1/14〜16


 空洞=<うつほ>は響きを生む。うつほの空間のその反響は、わたしたちの胸懐に染透し、ある情動を起こさせる。風景の中にその空洞の響きを感じ取る。そこにある時間的空間的層の連なり、襞。自らの身体を通して、それら風景を構成するものの中に潜り込んでみる。うつろい、漂流する風景に立ち、逍遙し、想像していく。土地はどう読まれ、どう上演されるだろうか。


< 境界の町に漂い、風景を読む>


 あの震災から10年、わたしたちは福島県浜通り地方のほぼ中間地点、双葉郡富岡町にいる。この地は、原発事故の影響で2017年まで、避難指示区域だった。福島第一原発から10キロ圏内、現在も町の北東部、夜ノ森、小良ヶ浜地区は帰還困難区域に指定されている。


 富岡町には、福島第二原発(通称2F)が立地し、北側の隣町である大熊町には福島第一原発(通称1F)が立地する。第一・第二原発の中間に位置する富岡には、両原発から電力を供給して、首都圏に送電するための新福島変電所が存在する。新福島変電所は完成当時、東洋一の変電所といわれ、その巨大さは、さながら阿武隈山地の裾野に聳える壮麗な城廓のように映るだろう。そして浜通りを縦断する長大な防潮堤や火力発電所など、この地域には巨大な建造物がまさにその巨大性を誇示するように海や山に隣接している。茨城県日立市から続く常磐炭田の最北端は富岡町であった。常磐線の開通も、石炭の輸送経路の確保のためである。浜通りは近代以降、エネルギー産業と共に歩んで来たのだ。

 

 数年の避難指示によるブランクを経て、今も大規模な復興工事や除染作業による建物の解体が行われている。昨日まで残されていた家屋であっても、10年目にして解体されるものもある。まだまだこれから解体は続くのだろう。同時に全くの更地、草の生い茂るグラウンドも、建物の基礎や土台だけを残した敷地も、半壊し朽ちていくにまかせる家屋、無傷の廃墟、真新しい集合住宅....といったこの10年の歳月のグラデーションが、斑模様に見透せる空間となって広がっている。


「ここはどこだろうか/私はどこにいるのだろうか」人々の自己とその身体は、かつて分ちがたく結びついていたはずの土地と空間から隔てられ、遠近感を失っていく。自身が立っている場所の高低差、奥行き、広さも、物理的(physical)におぼつかない。日常が突如として切断され、廃頽し荒涼とした人家の風景と、撹拌され削られ無造作にむき出してある大地の断面、近接し対応するように盛られた巨大な構造物の連なり、切り土と盛り土の折り返し、"復興"の只中にあって、風景は刻一刻と変化し、移ろい続けている。

 人々の暮らしの風景・場所を<人境>とよぶことがある。それら人々の営みから生まれ、あるいは環境や歴史に起因する種々の垣根や敷居のかつての痕跡を、わたしたちは追いかける。


 さかのぼれば、この町は境界の地と言われてきた。かつては標葉氏と楢葉氏(※1)の境界として、さらに南北朝時代以降は、岩城氏と相馬氏の境界として、そして中通り地方の勢力の侵入など、くり返し領土争いが行われ、境界線は揺らいできた。江戸期に入ると、いわき平藩の北端となり、また棚倉藩や多古藩、仙台藩などによって分割統治され、あるいは幕府の直轄地=幕領となるなどの変遷をたどり、統一性を欠いてきた。しかし同時に富岡はその地政学的な中心性から、街道の重要な交易拠点となって、近世以降栄えてきた。

 

 幕府の直轄地であったのは富岡をはじめ双葉郡広域にわたり、それは知行替えの為の予備地として残された、空白地帯であったことを意味する。そして幕末には戊辰戦争の戦場ともなった。くり返し虚ろな大地を呼び込んで来たのだ。「東北のチベット」や空洞の地とよばれた双葉郡地域を、岩城であり相馬でもあり、またどちらでもないアンビバレントな地、富岡町から眺めることで何が見えてくるだろうか。


 時のあわれに、うつろいゆく風景や場所の趣は、わたしのこの身の内奥にうつしだされ、照りだされ、その反響は身体を駆け巡り、沁み入る。吹き抜けていくその響きは、わたしの身体を織りなす襞ととけ合い、振動し、その交感のうちに、また変転し、我が身も風景の中に融けいる。物質を変え、物質を移動する。

 

 わたしたちは<この土地をいかに映し出し、またこの身に写し取ること>(=上演)ができるだろうか。みなさんと共に歩き、巡ることからはじめたい。

 



※1)標葉氏(しねは)と楢葉氏(ならは)の支配領域の範囲が、後に2つの「葉」の字にちなみ「双葉郡」となった


Tomioka Town emblem

アクセス

JR常磐線 富岡駅

(〒979-1121 福島県双葉郡富岡町仏浜釜田)

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